甲州弁は山梨県で使われている方言です。
山梨県は昔「甲斐国」と呼ばれ、「甲斐国」の異称が「甲州」であったと言われています。
「甲州」は明治元年に「甲府」から「甲府県」となり、その後「山梨県」と呼ばれるようになりました。
戦国時代の武将である武田信玄は、「甲斐国」の当主です。
「甲州弁」には武田信玄にまつわる語源があります。
「信玄公の逆さ言葉」と言われる、隠し言葉が今でも使われいるのです。
また、甲州弁は、朝ドラ「花子とアン」の台詞やテレビ番組「月曜から夜更かし」の甲州弁講座によって、世間から注目を浴びています。
怖い・汚い・面白いと言われる甲州弁は、どんなものなのでしょうか?
この記事では「甲州弁」の特徴を例文付きで徹底解説します。
この記事で分かること
- 甲州弁の特徴
- 甲州弁一覧
- 甲州弁挨拶
- 面白い甲州弁
- 甲州弁夜更かし
- 甲州弁ラジオ体操
気になる甲州弁がありましたら、ぜひ覚えて使ってみてくださいね!
目次
1.甲州弁の特徴
甲州弁は主に3つの方言に分けられます。
- 郡内方言:西関東方言に属する山梨東部方言
- 国中方言:長野・山梨・静岡方言(ヤナシ方言)に属する山梨西部方言
- 奈良田方言:言語島である早川町奈良田で使われる方言
甲州弁で有名な語尾が「ずら」です。
「ずら」は静岡県に面する南部地域や東部に位置する郡内では、違う言い方になります。
甲州弁の語尾を地域別に見てみましょう。
甲州弁の語尾 | 意味 |
~ずら・~ら(全県) | ~だろう |
~だら(南部) | ~だろう |
~べー(郡内) | ~だろう |
~ず・~ざー・~じゃん(全県) | ~しよう |
~だー(南部) | ~しよう |
~べー(郡内) | ~しよう |
このように、同じ意味でも地域によって違う語尾が使われています。
また、「~じゃん」は複数の意味を持つ語尾です。
「~じゃないか」と決まったことを確認する、「~しよう」と相手を誘う、「自分ひとりでやろう」と意思を表示するなど、使い方はさまざまです。
こういった「じゃん」のように、他県でよく使う意味と同じ意味と別の意味、2つの意味で使われる方言は珍しいと言われています。
さらに、「ずら」は語尾としてだけでなく、単独でも使われます。
会話相手に「いいじゃん!」と言われた時の答えである「でしょ?」にあたるのが、「ずらー?」です。
「そうでしょ?」は「ほーずら?」になるため、略して「ずらー?」と答えますよ。
1−1.甲州弁怖い
甲州弁には怖いと言われる特徴もあります。
山梨県で運転中によく見かける言葉や相手に命令する語尾が、怖い印象を与える理由ではないかとされています。
- きをつけろしねは「気を付けてくださいね」という意味の甲州弁です。「~しね」が「~してくださいね」という意味なので、県内の人は見慣れている表現です。山梨県では運転中によく見かける言葉ですが、他県の人はドキっとしてしまいますね。
- ちゃんちゃんと行けし!は「さっさと行きなよ」という意味の甲州弁です。「行った方がいいよ」というニュアンスの肯定の命令文ですが、「行けし!」の語尾が強く、指図されている印象を受けやすいのだと思われます。
1−2.甲州弁汚い
甲州弁は、関西弁や広島弁に並んで「日本一汚い方言」「ブサイク方言ワースト1位」と言われています。
「ザ」と「ダ」が混同することや、濁点が付く言葉が多いこと、独特な言い回しが「汚い」と言われる理由だと推測されます。
- でったいいかだーは「絶対行こう」という意味の甲州弁です。ザ行がダ行になるだけで耳触りの良さに変化が加わるため、汚いと思う方もいるかもしれません。
- おまんのぶにはぶちゃっずらは「あなたの分は捨てただろう」という意味の甲州弁です。「ぶに(分)」や「ぶちゃる(捨てる)」のような濁点の多い言葉から、汚い印象を受ける方もいるでしょう。
- ぼこんとうがいにゃーじゃんは「子どもたちがいないじゃん」という意味の甲州弁です。甲州弁は「ない」が「にゃー」に変化するにゃーにゃー弁とも言われます。聞き馴染みがない人にとっては、むさくるしいイメージがあるかもしれないですね。
2.甲州弁一覧
おまんとう
「お前たち」という意味の甲州弁です。
「おまん」が「お前」、「とう」が「達」という意味で使われています。
ちなみに「おら」は「自分」のことを表しますよ。
おまんとぉに言っておきてえこんがある。
(お前たちに言っておきたいことがある。)
いくじ
「何時」という意味の甲州弁です。
子供を育てる「育児」と間違いそうですが、「いくつ」と「時間」を合わせた言葉と覚えましょう。
いく時に待合せたら間に合うらか。
(何時に待合せたら間に合うだろうか。)
1校時・2校時
学校の授業の「1時間目・2時間目」を表します。
栃木や兵庫、北九州、福島や沖縄などでも使われています。
授業時間を表す言葉には「時間」の他に「時限」や「限」なども用いられますが、「校時」は辞書変換で出てこないことから、方言ではないかと言われています。
今日の3校時まででテスト終わり!うんとうれしい!
(今日の3時間目まででテスト終わり!めっちゃうれしい!)
いっさら
「全然」という意味の甲州弁です。
ヤナシ言葉のひとつですが、山梨では「いっさら」、長野では「いっそら」、静岡では「いったら」と変化します。
いっさら勉強しなんだから、平均点も取れんずら。
(全然勉強しなかったから、平均点も取れないだろう。)
えらい
「大変・ものすごく」という意味の甲州弁です。
良いことをして褒められる方の「偉い」と混同してしまいそうですね。
「ものすごく」「とても」という意味では「うんと」も使われます。
えらいえれーこんが起こったさよぉ。
(ものすごく大変なことが起こったんだよ。)
かう
鍵などを「かける」時に使われる甲州弁です。
意味を間違われやすく、「鍵かった?」と聞かれ「え?鍵なんて買う予定ないけど……」と不思議がられる言葉です。
鍵をかうのを忘れんようにししょう。
(鍵をかけるのを忘れないようにしましょう。)
かじる
「掻く(かく)」という意味の甲州弁です。
りんごや煎餅をかじることだと間違えそうですね。
「背中かじって」と言われて、背中にかみつかないようにしましょう。
ほんねんかじったら傷になっちゃうよ。
(そんなに掻いたら傷になってしまうよ。)
かまーん
「構わない」という意味の甲州弁です。
「構わん」が変化した言葉です。
カマーンベールチーズのことや、英語で「ヘイ!カマーン」と誘われていることと勘違いしないようにしたいですね。
困ってるじゃあ頼ってくれてかまーんよ。
(困っているなら頼ってくれて構わないよ。)
からかう
「やってみる・挑戦する」という意味の甲州弁です。
揶揄するという意味の「からかう」は悪いイメージですが、甲州弁の「からかう」は「挑む」というプラスのイメージで使われますよ。
次はうんと難しいこんにからかってみてえ。
(次はとても難しいことに挑戦してみたい。)
ちょびちょび
「落ち着きがない」という意味の甲州弁です。
「ちょべちょべ」とも言われ、「ちょっかいを出す」「調子に乗る」「こざかしい」という意味も持っています。
えいからげんにして!ちょびちょびしんでよね!
(いいかげんにして!調子に乗らないでよね!)
ぼこ
「子供」という意味の甲州弁です。
昔養蚕が盛んだった甲州では、お蚕さんを「おぼこさん」と呼んで大事に育てていたそうです。
「子どもたち」は「ぼこんとう」になりますよ。
明日はぼこんとうが家に来るずら。
(明日は子どもたちが家に来るだろう。)
わからんじん
「わからずや」という意味の甲州弁です。
「言っても分からない人」と考えると、意味を理解しやすいかもしれませんね。
郡内では「ごんじ」とも言われます。
あんなわからんじん、もう手に負えんわ!
(あんなわからずや、もう手に負えないわ!)
3.甲州弁の挨拶
甲州弁の特徴的な挨拶には「おいでなって」や「ごめんなって」があります。
- おいでなっては「いらっしゃい」という意味の甲州弁で、歓迎の意味を表します。山梨県のポスターなどでもよく見る言葉です。
- ごめんなっては「ごめんください」という意味の甲州弁です。山梨のお宅を尋ねる時にはぜひ使ってみましょう。
- お疲れなっては「こんばんは、今日もお疲れ様」として使われる夕方の挨拶です。一言に挨拶とねぎらいの言葉が含まれている優しい方言ですね。
可愛らしい「なって」という表現を覚えて、使ってみてくださいね。
4.面白い甲州弁
甲州弁の面白いところは、否定と肯定が逆のように聞こえる言葉があることです。
例を挙げてみましょう。
甲州弁 | 意味 |
学校にいっちょ | 学校に行くな(強い否定) |
ぶどう狩りにいかず | ぶどう狩りに行こう |
水ができないから洗濯がでない | 水が出ないから洗濯ができない |
自転車をはそんする | 自転車を修理する |
先生をそんけーする | 先生を侮辱する |
このような、反対の意味に捉えられる言葉は、昔武田信玄が敵をあざむくために使用した隠し言葉であると言われています。
続いて、響きが面白い甲州弁も見てみましょう。
4−1.コピッとしろし
「シャキッとしなさい」という意味の甲州弁です。
朝ドラ「花子とアン」の台詞に使われていたことで知られています。
「入学式ぐれえコピッとしなせーね!」のように使われます。
4−2.てっ!
「わあ!」や「へえ!」と心が動かされた時に声に出る言葉を表す甲州弁です。
「てっ!うんとわきゃー人じゃん!」「てっ!知らなんだ!」のように使われます。
4−3.つこん・てこん
「~ということだよ」という意味の甲州弁です。
「うんとうれしいっつこん!」「えらい忙しいっつこん」のように使われます。
5.甲州弁夜ふかし
テレビ番組「月曜から夜更かし」で甲州弁講座が取り上げられたことで、甲州弁が世間に広まりました。
テレビで紹介された会話を一部紹介します。
- おーい、こっちんこっちん。おまん、こっちんこうし!は「おーい、こっちこっち。あなた、こちらへきてください!」という意味です。若者はネタとして使っており、普段は年配の方が使う方言です。
- まあ、だっちもねぇこんいっちょ!は「もう、しょうもないこと言わないで!」という意味です。「だっちもねぇ」は歌のタイトルにも使われるほど、甲州では有名な言葉です。
- おまんと付き合ったから、かわいくなったつーこんずらは「あなたと付き合ったから、かわいくなったっていうことだろう」という意味です。
- もうわにわにひちょしは「もう、ふざけないで」という意味の甲州弁です。可愛らしい表現ですが、言い方によっては実は相手が怒っていることもあるため、気を付けたいですね。
- はんでめためたごっちょでごいすは直訳すると「急いで・さらに・面倒くさい・ございます」になります。「いつもやたらと面倒ですね」「手間かかりましたね」のようなニュアンスのようです。
甲州弁の破壊力に驚く声とともに、「大げさに表現しすぎている」という指摘や「山梨出身とカミングアウトしにくい」という声も上がっていたようですよ。
6.甲州弁ラジオ体操
こちらは甲州市の職員ラジオ体操チームによるラジオ体操第一の教則映像です。
通常のラジオ体操と同様に体操の仕方を甲州弁で説明するだけでなく、途中合いの手のような言葉が入るのが印象的です。
「やるじゃんけ」「ちゃんとしろし~」「ひっくりえっちょし」「わにわにしちょし~」「コピッとあげるだよ~」などの甲州弁満載のラジオ体操です。
独特な甲州弁を楽しみながら、一緒に体操をしてみましょう。
7.甲州弁一覧まとめ
怖い・汚い・面白いなどさまざまな一面を持ち、昔から伝わる隠しことばが方言として根付いている甲州弁はとても魅力的ですね。
テレビでも話題の甲州弁をぜひマスターして使ってみてくださいね。